No.126【メソポタミアとインダスのあいだ~知られざる海洋の古代文明】

 評価:85点/作者:後藤健/ジャンル:歴史/出版:2015年


 『メソポタミアとインダスのあいだ~知られざる海洋の古代文明』は、古代オリエント博物館特別研究員の後藤健氏による、歴史解説書。

 日本の教育では、メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明、黄河文明を、世界四大文明としている。

 四大文明は、全て、農耕文明であり、本作の対象は、メソポタミアとインダスである。

 メソポタミアは、現在のイラクで、インダスは、現在のパキスタンであるため、両者には、関連がないように見える。しかし、世界地図を見ると、二つの文明は、アラビア海を挟み、海を視点に考えれば、近距離であることに気付く。

 陸地では、両文明の間には、イラン高原が広がっている。

 本作の題名、『メソポタミアとインダスのあいだ』は、二つの文明の間、イラン高原とアラビア湾の文明、エラム文明と、ウンム・ン=ナール文明についての最新の研究成果の解説である。

 農耕文明のメソポタミアには、実は、文明に必要な資源、材木、石材、貴金属などが、一切、存在しない。

 それでは、メソポタミアでは、それらを、どうやって、入手したのか?

 その答えが、イラン高原とアラビア海に広がる、交易ネットワークの文明である。

 筆者は、メソポタミア文明の研究をしたことがあるため、イラン高原のエラム文明と、アラビア海の理想郷、「ディルムン」についての知識はあった。

 しかし、それらに関する、日本語の解説書は、筆者の知る限り、存在しなかった。

 図書館で、本作の題名を見た時、エラムとディルムンについての解説書と予測し、見事に当たった。

 筆者が、長年求めていた、書籍だったのである。

 ただし、メソポタミア文明に関する知識がない人には、本書の理解は、不可能であることを明言しておく。

 本書が対象とする、イラン高原の文明は、正確には、「原エラム」と「トランス・エラム」文明である。

 原エラム文明は、メソポタミアには存在しない、数々の資源を、広大な陸上ネットワークによって、提供していた。原エラムは、農耕文明ではなく、交易文明であり、材木、石材、貴金属などの資源を、メソポタミアの農作物と交換していた。

 世界地図を見ると、アラビア湾を挟んで、イランの海岸の直近の対岸にオマーン半島が、存在していることがわかる。

 原エラム文明は、オマーン半島に技術者を送り込むと、銅山開発を行い、メソポタミア交易の海路のネットワークを築く。

 それが、「原ディルムン」、ウンム・ン=ナール文明である。陸海の交易路の誕生であった。

 原エラムは、メソポタミアに隣接する、スサを拠点としていたが、メソポタミア側は、交易の条件に満足しなかったため、スサを略奪する。

 しかし、エラム側は、その拠点を、メソポタミアからは遠い、シャハダードに移し、交易を続けた。

 スサからシャハダードへの移動後のイラン高原の文明を、トランス・エラムと呼ぶ。

 本作は、トランス・エラムが、インダス文明の都市、モヘンジョ・ダロを設計したとの説を唱えている。

 インダス文明の誕生によって、メソポタミア、イラン高原、中央アジア、アラビア半島、インダスは、各々が、孤立した、文明ではなく、交易ネットワークによる、広域文明圏へと発展する。

 4,000年以上前の西アジアには、既に、巨大な文明圏が存在したのである。



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