乳児遺棄 | 深まる謎


三浦市三崎の三崎港近くの海上で4月、生後間もない女児の遺体が浮いているのが見つかった死体遺棄事件は、発覚から3カ月以上が経過した現在も女児の身元が分かっていない。女児には先天性の心疾患があり、県警は県内全域の医療機関を対象に、特徴の合致する女児を妊娠していた母親がいなかったか情報を求めているが、今のところ進展はない。港周辺での不審人物の目撃情報もなく、事件は混迷の色を深めている。

 4月25日午前9時半ごろ。三浦市の南端、太平洋に面した三崎港では強風が吹いていた。港内にある水産加工場の男性従業員(30)は、岸辺にたまった大量のゴミや海藻にまぎれた小さな“物体”に目を向けた。前日の夕方ごろから浮かんでいて、「猫の死骸だろう」と見過ごしていたもの。よくよく確認すると、それは人間の子供の遺体だった。

 遺体は、出荷作業中の漁業関係者の男性からの通報で駆けつけた三崎署員によって引き上げられた。身長約53センチ、体重約3千グラム。女の子の乳児で、衣服は身につけていなかった。男性従業員は「最初は猫の死骸か、もしくは人形かと思った。人間だと気づき言葉を失った」と青ざめた表情で振り返る。

 県警は死体遺棄事件とみて捜査を開始。目立った外傷はなかったが腐敗が進んでおり、司法解剖で死因は分からなかった。肺から水が検出され、生きたまま海中に捨てられた可能性もあるが、捜査関係者は「かなりの時間、水中に浮いていたと想定されるため、死後に自然と肺に水が流れこんだとも考えられる」との見方を示す。

 捜査の結果、分かった手がかりがいくつかある。1つ目は、女児が先天性の心疾患である「完全大血管転位症」を患っていたことだ。国内の新生児の発症割合は0・05%と珍しく、母親が出生前診断などを受けていた場合、医療機関側の診療記録を照会すれば特定できる可能性がある。

 2つ目は、遺体についたままになっていたへその緒の切断面がなめらかだったこと。鋭利な刃物を使用したとみられ、県警は産婦人科など専門の技術がある医療機関で産まれた可能性が高いとみて、まずは港がある三浦市内の病院などに確認を依頼した。6月上旬からは県内全域に範囲を拡大した。完全大血管転位症の有無はもちろん、中絶を希望したまま通院を途中でやめるなどした母親も確認の対象に入れている。しかし現状では、有力な情報は届いていない。

 難航する捜査に追い打ちをかけるような事実も、最近になって分かってきた。県警が医師らに意見を募ったところ、へその緒は裁縫用など一般家庭向けのハサミを使ってもきれいに切断できることが判明した。 また、女児のへその緒には止血した形跡がなかった。医療機関で出産した場合、断面を専門のクリップなどではさんで止血するのが一般的といい、捜査関係者は「さまざまな可能性が浮上していることは事実」と打ち明ける。

 ほかにも謎は多い。同港周辺ではこれまでに、不審な人物の目撃情報は寄せられていない。遺体の状態から、橋の上など高所から投げ落とすような状況ではなかったとみられる一方、潮の流れの関係で、遺体が全く別の地域から流れ着いた可能性も捨てきれない。「どんな事情があったのか分からないが、自分の親に相談したり、誰かに助けを求めたりすることはできたのではないか。せめて赤ちゃんに花や線香をあげに来てほしい」。同港にある水産加工場で働く女性(52)は、そう憤りをあらわにした。

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